カリフォルニアでワイナリーを事業承継し、サンフランシスコのスタートアップでCTO/COOも経験した身として、起業家と事業家は似ているが完全に別の生き物であると思っています。
そもそも、スタートアップと事業承継では、期待される成長曲線が異なる。どんなに綺麗な言葉で包んでも、スタートアップに期待される急成長を規模感を持って描けている起業家は、肌感で1割もいない。
現地のVCがフラットに提案を聞く場を設けても、渡米して持ってくるピッチや事業計画のクオリティが低くて、「準備ができたらまた教えてね。連絡は続けよう」。みたいに、可能性をわずかに残してる感じでお断りされてるのを見てきた。
ただ「シリコンバレーを見る前に足元を見て」は一切気にしなくていい。自分の凹凸や感性にフィットする環境を見極めて、そこでやりたいことをやればいい。それがたまたま日本じゃなかったなら、居心地の良い場所を模索していけばいいと思う。
問題は、目指す世界観が本当に的を射ているかどうか。小さな課題を適切なサイズで扱わず、スタートアップを名乗るためにExcelとスライドを飾ることに時間を費やすのは本末転倒になっちゃう。
**シリコンバレーで起業するより、日本の会社を継げ**
ある大手IT企業系のベンチャーキャピタルが、日本人起業家をサンフランシスコに半年ほど送り込むプログラムを回している。今年は1期生が現地でピッチを行い、2期目には数百人の応募が集まったという。
結論から言う。挑戦する若者を応援したい気持ちは強い。だが、日本人が世界で勝つ道として最善かといえば、私は違うと考えている。
まず、評価すべき点から。本人を現地に住まわせていることだ。日本にいながら米国市場を狙う。これは日本のスタートアップが何度も繰り返してきた負けパターンである。米国に会社を作り、本人がそこで暮らす。それだけで、米国の投資家が投資できる土俵に上がれる。数百人も手を挙げたことも心強い。「日本の若者は外に出たがらない」という話は、もう当てはまらない。
一方で、気になる点が三つある。
一つ目は、お金が小さすぎることだ。出資額は1社あたり1000万円弱である。米国の代表的な育成機関であるYコンビネーターは、1社に50万ドル、7000万円以上を出す。桁が違う。サンフランシスコで1000万円では、創業者1人が半年暮らすのがやっとで、エンジニアは1人も雇えない。そして本当に怖いのはその先だ。米国の投資家が次の資金を出さなければ、そこで終わる。
二つ目は、「日本人起業家」という括りそのものである。米国の投資家が見ているのは市場と勝ち筋で、国籍ではない。日本人同士でピッチし、日本人の先輩から助言を受ける。居心地はいいが、小さな日本人村になりかねない。
三つ目は、どこで戦うかだ。誰でも作れるAIサービスで勝負すれば、スタンフォードを中退した米国の若者と同じ条件で戦うことになる。日本人が勝つ理由がない。
ピッチを見た現地の関係者からは、シリコンバレーの水準にはまだ届かないという声も出ていた。だが問題はプレゼンの型ではないと思う。型は3か月で直せる。米国の顧客が何に困っているかは、現地で実際に売ってみなければわからない。
つまり、こういうことだ。見ず知らずの土地で、ゼロから需要を探す。これは世界で最も難しい勝負を、最も不利な条件で挑むことに等しい。
私が最善だと考える道は別にある。
日本で、すでに需要が確かめられている会社を継ぐ。顧客がいて、売上があり、技術や現場の知恵がある会社だ。そこにAIとデジタルを入れて徹底的に効率化する。稼ぐ力を高めてから、世界に打って出る。
日本には、後継者がいないだけで廃業に追い込まれる黒字の中小企業が山ほどある。製造業、食品、介護、地方の老舗。どれも、何十年もかけて顧客に選ばれ続けてきた会社だ。需要を一から創る必要はない。需要はもう、そこにある。
足りないのは、それを効率化し、世界に持っていく人材である。シリコンバレーを目指すほどの度胸と能力がある若者なら、なおさらだ。ゼロから会社を起こすその力を、すでにある会社を磨き上げる方向に使ってほしい。
米国でゼロから戦う道を否定はしない。そういう挑戦者が増えることは、日本にとって財産になる。だが、日本人が世界で勝つ確率が一番高いのは、日本にしかない武器を持って出ていくことだ。その武器は、すでに日本中の会社の中に眠っている。
シリコンバレーに行く前に、足元を見てほしい。継ぐべき会社は、すぐそこにある。